そもそもNANDフラッシュとは——「電源を切っても消えない記憶の倉庫」
スマホの写真、パソコンのファイル、データセンターのデータ。これらは電源を切っても消えません。この「消えない記憶」を担うのがNAND型フラッシュメモリです。パソコンやサーバーのSSD、スマホの保存領域はほぼすべてNANDでできています。キオクシア(東証: 285A)は、東芝から独立したこのNAND専業メーカーで、世界シェア上位の一角です(キオクシア公式)。
似た名前の「DRAM」や「HBM」は、計算中に一時的に数字を置く作業机(電源を切ると消える)。対してNANDは、作業が終わった書類をしまう倉庫(電源を切っても残る)。役割がまったく違います。本記事は、その倉庫メーカーが2026年7月3日に発表した最新世代「第10世代BiCS FLASH™」を、専門用語をかみ砕いて初心者向けに整理します。
BiCS FLASHとは——キオクシアが"縦に積む"3D NAND
昔のNANDは、記憶素子(セル)を平らに敷き詰めて容量を増やしていました。でも面積には限りがあります。そこでキオクシアは、セルをビルのように縦に積み上げる方式に切り替えました。これがBiCS FLASH(3D NAND)です。
平屋の家(平面NAND)を、同じ土地面積のまま高層ビル(3D NAND)に建て替えるイメージです。階数(積層数)を増やすほど、同じ床面積により多くのデータが入る——これがBiCSの基本原理です。世代が上がるたびに、この「階数」を増やしてきました。
第10世代BiCS FLASHの中身——332層・1Tb・4.8Gb/s
2026年7月3日、キオクシアは第10世代BiCS FLASHを適用した1Tb(テラビット)・3bit/cell(TLC)品のサンプル出荷を開始したと発表しました(キオクシア公式)。主な数字はこうです。
| 項目 | 第10世代の数値 | 補足 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 積層数(階数) | 332層 | 高く積むほど大容量 | キオクシア / EE Times |
| 1チップの容量 | 1Tb(TLC) | 3bit/cell | キオクシア |
| 転送速度 | 4.8Gb/秒 | 第8世代比 +33% | キオクシア |
| ビット密度 | +59% | 同じ面積により多く記憶 | キオクシア / EE Times |
| 書き込み電力効率 | +18% | 省電力(データセンター向け) | キオクシア |
| 読み出し電力効率 | +30% | 同上 | キオクシア |
| 製造拠点 | 北上工場(岩手県北上市)第2製造棟 | サンディスクと共同生産 | キオクシア |
技術的な要はCBA(CMOS directly Bonded to Array)という手法です。データを記憶する「セルの層」と、それを制御する「回路(CMOS)の層」を別々のウェハーで作ってから貼り合わせるもので、第8世代から採用されてきました(キオクシア技術ページ)。別々に最適な条件で作れるため、高く積んでも性能を出しやすくなります。
第8世代・第9世代との違い——「番号順」ではなく「2軸戦略」
ここが初心者のいちばんのつまずきポイントです。「第10世代=第9世代より全部すごい」ではありません。キオクシアは世代を「大容量・高密度」と「高性能」の2つの軸で使い分けています(EE Times)。
| 世代 | 主な仕様 | 積層数 | 狙う市場(軸) | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 第8世代(2023〜) | CBA初採用・18.3Gb/mm² | 218層 | 汎用 | キオクシア |
| 第9世代(2025/7〜) | 512Gb TLC・高性能軸 | 300層超(報道) | AI PC・スマホ等モバイル | キオクシア / EE Times |
| 第10世代(2026/7〜) | 1Tb TLC・大容量軸 | 332層 | データセンター・AI向けSSD | キオクシア |
つまり第9世代は「あえて層を抑え、速さ・省電力を優先」してモバイルを狙う世代。第10世代は「とにかくたくさん積んで大容量」でデータセンターを狙う世代。兄弟が別々の得意分野を持っているイメージで、番号の大小だけで優劣はつきません(EE Times)。
いつ手に入る?——サンプル出荷は2026/7/3、量産は今後
「サンプル出荷」は、顧客(SSDメーカー等)に評価用のチップを配る段階です。実際に製品として大量に市場へ出る「量産」はその先になります。量産時期については、当初2027年後半の予定でしたが、AI・クラウド・エンタープライズからの需要を受けて前倒しの動きがあると報じられています(Tom's Hardware、Bloomberg)。
つまり2026年7月時点は「最新世代を世に出し、量産へ向かう入口」。実際にこのチップを積んだ大容量SSDが市場に広く出回るのは、この先の話です(semicon.today)。
- 12023第8世代(218層)CBA技術を初採用
- 22025/7第9世代(512Gb・300層超)サンプル出荷・高性能軸
- 32026/7/3第10世代(332層・1Tb)サンプル出荷開始←いまここ
- 4量産当初2027年後半予定AI需要で前倒しの動き(報道)
なぜAI時代に効くのか——「推論」がストレージを食う
AIは「学習」と「推論」の2フェーズがあります。近年は、学習済みAIを大量のユーザーが使う「推論」の比重が急増し、そのために膨大なデータを高速・省電力で保存・読み出しするストレージが必要になっています。第10世代の「大容量×省電力」は、まさにこのAI推論時代のデータセンターSSDに向けた設計です(キオクシア公式、semicon.today)。
この技術がキオクシアにとって持つ意味(中立に)
強気の見方は、「AI向け大容量SSDの需要は構造的で、最新世代を出せるキオクシアは価格上昇の恩恵を取り込みやすい」というもの。一方で慎重な見方は、「NAND(メモリー)は歴史的に好不況の波が大きい循環産業で、サムスン・SKハイニックスなど競合も増産しており、供給が増えれば価格は反転しうる」というものです(Tom's Hardware)。技術の優位と、株価・業績の先行きは別問題です。StockCodeは将来の株価・買い時を示しません。
まとめ
- 第10世代BiCS FLASHは、キオクシアのNAND(消えない記憶の倉庫)の最新世代。332層・1Tb・第8世代比で速度+33%・密度+59%(キオクシア公式)。
- 世代は「番号順で優劣」ではなく、大容量軸(第10世代=データセンター)/高性能軸(第9世代=モバイル)の2軸戦略(EE Times)。
- 2026/7/3はサンプル出荷の段階。量産は当初2027年後半予定で、AI需要により前倒しの動きが報じられる(Tom's Hardware)。
本記事は情報提供のみを目的とし、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。将来の株価・業績・需給を予測するものではなく、投資判断はご自身の責任で行ってください。数値は各出典の公表値・報道に基づきます。
- 第10世代は『縦に332層積む』ことで大容量・省電力を実現したNANDの最新世代(速度+33%・密度+59%)。
- 世代は番号順の優劣ではなく、大容量軸(第10世代=データセンター)/高性能軸(第9世代=モバイル)の2軸戦略。
- 2026/7/3はサンプル出荷段階。量産・市場搭載はその先で、技術の優位と株価の先行きは別問題(売買推奨ではありません)。
